ニク・イルフォヴァーヌ氏


1975年ルーマニア・ピテシティ生まれ、ブカレスト在住。ブカレスト美術大学を卒業後、同大学で写真・映像の修士課程に学ぶ。2004年、ルーマニア・ユニオン・オブ・アーティスツの写真賞を受賞。現在は、ブカレスト美術大学写真・映像学科の教授を務めながら、写真から映像まで、多様な手法とテーマで作品を制作している。主に、ピントや露出が自由にコントロールできないボックス・カメラを用いて撮影を行う。目に見えている風景を正確に写しとるのではなく、あえて不可抗力に自らをゆだね、偶然が生み出す効果を引き受けながら、既視感をおぼえる独特な光景を創り上げていく。イルフォヴァーヌは、写真と映像との間を自在に行き交いながら、視覚表現のさらなる可能性を追求している。 www.ilfo.ro

時間の興味と色への興味

写真はモノクロから始め、最初の頃は簡単なものを撮っていました。うちで飼っているペットや自分の知人など、自分の身近なものを撮った「ドメスティック」シリーズは1996年~2000年にかけての作品です。それぞれのヒストリーを感じさせるよう撮りました。

「ノータイトル」というタイトル作品は96年に撮影して、意図して4年の歳月を経て2000年に現像しました。時間のギャップへの興味からあえてやってみたことです。

2004年からカラー写真を撮り始めましたが、第一次世界大戦の頃、カラー写真を保存する技術を持っていたフランス軍の写真部隊SPAを意識した「SPA」シリーズという作品があります。SPAがよく使っていたアウトクロムという技術を使って現像しました。
アウトクロム自体は、映画を発明したルミエールという兄弟が開発したと言われています。写真が当初はモノクロしかなく、後にカラーになっていったという歴史の中で、アウトクロムは完全にカラーではないけれどもカラーのように見せるという技法で、ジャガイモの澱粉を使って色をつけたという方法です。

古いカメラを使って撮った写真シリーズもあります。今回の写真展のパンフレットの写真も同じカメラで撮影したもの。これらは「色」が重要です。現像の時も発色に細心の注意をはらいました。写真展でもその色にぜひ注目していただきたい。色に関して、見えるものをそのまま写すのではなく、現像やカメラに工夫を凝らし、自分なりの独特のカラーを突き詰めて写真を制作しています。 セミナー
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