「手、それ自体をキャラクターにしてみた」

Ⅱ PandAインタビューシリーズ「この人に聞きたい!」  第1回  大寺聡さん


CHAPTER 2 「手、それ自体をキャラクターにしてみた」

早川)
クライアントが喜ぶことが自分のやりたいことっていう価値観って新鮮です。
大寺)
そうですね、クライアントっていいますか、伝えたい思いとしてのアイデアがデザインに落とし込まれて、不特定多数の人が作品に接して一瞬にして分かる、っていうことが好きなんですよ。
大量生産と不特定多数の目。それがデザインの魅力だと僕は思ってるんです。

早川)
私はポスターもパンフレットも大寺さんの作品として捉えていて、それなのに私も3回も描き直ししてもらっちゃったという申し訳なさと同時に、だからこそ私自身にも愛着があるんです。
大寺)
あはは、それは嬉しいですね。あと、このポスターの場合、最初から参加される作家の方をお聞きしてて、何人かの方は僕も直接、知っていたということもあり、その方たちの誰か一人の作品を思い起こさせるデザインであってはいけないと思ったんですね。
全体を想起させるようにしないと。で、いつも僕が描いてる絵とも変えないといけないとも思ったんです。
早川)
ええ、ですので、私も初めの案をいただいたときに、まず、今までの大寺さんの作品のイメージと違って新たな面を見せていただいたなって思ったんですよ。
で、大寺さんの今までの作品を知ってる方たちも、今回の作品が大寺さんのものだとすぐには気づかない方が多かったんです。
大寺)
今回は「触れる」という視覚的に表現しづらい抽象的なテーマだったので、その言葉をなにかに置き換える作業が必要で、そこで視覚に障害のある方は指先に目がある、という発想から「手」、それ自体をキャラクターにしてみたんですね。
早川)
会場にも来ていただいて、実際に展覧会を体験されていかがでしたか?
大寺)
そうですね、あれだけ次々に作品に触れて楽しむってことは初めての経験でした。
最初はちょっとドキドキしましたね。どうしても「触れてはいけない」っていう先入観がありますから。触れていいんだという安心感が得られてからは、どんどん楽しめました。
早川)
作品展に来てみて、自分の作品はどう思われました?
大寺)
自分の作品であるイラストの部分はなかなか客観視できないんですが、案内ハガキとパンフレットでやった表面が部分的に盛り上がる「バーコ印刷」はよかったですよね。
早川)
そうそう、これはご提案いただいて、印刷コスト的には割高になるんですが、思い切ってやってみて、本当によかったと思っています。
この仕掛けの効果はものすごいですね!手にしてみて、「わー!高かったでしょ!」って人や、「わー!面白い!」って人とか、その反応も面白かったですし。
会場では、視覚障害の方々も、これを手にして、ずっと触れてました。多くの方がこれを持ち帰れる作品として大事そうにお持ちになってましたよ。
今回は、この仕掛けのある案内ハガキからすでに「触れる造形展」がスタートして、実際に会場へ、そしてパンフレットを持ち帰るというところまで、「触れる」テーマを一環して発信できたと思ってます。
この印刷物のおかげでホント「造形展」が大きく膨らみました。
大寺)
「触れる造形展」は鑑賞者の滞在時間が、「触れる」ことによって普通の展示会に較べて何倍かになってますよね。
制作者にとってはどれだけの時間作品に向き合ってもらえるかが、大きな意味を持つわけで、そういったことからも、この展覧会は意義深いですね。
早川)
そうなんです。滞在時間も長いし、リピーターも多かった。もちろん入場無料ってこともあるんでしょうけど、ありがたいことに、お客さまの中には、これが無料なんですか?という声もずいぶん聞かれました。
また、そういうことを意見としてアンケートに書いてくださる方もいらっしゃることも嬉しかったです。
大寺)
実は僕はこの展覧会にポスター、ハガキ、パンフレットのデザインで係わってデザイン料をいただきましたが、展覧会自体が無料であることが気になっていたんです。
お金は取っても何か、キーホルダーみたいなものをあげて、入場料でそれを買ったというような気持ちになってもらうとか。
早川)
それでいけば、入場料をいただいて、このパンフレットを渡すだけでも、十分意味があったんじゃないかとも思いましたよ。
これをタダで貰っていいんですか?とも何度もきかれましたからね。それほど価値を感じられたということですものね。






樹脂で部分的に盛り上げるバーコ印刷 この人に聞きたい!
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