内面の変化がいつか表現に出る

内面の変化がいつか表現に出る


小さいとき私の母は、お前は絵が上手だと言ってくれてました。小さい頃は紙が非常に貴重で、私の父が昔もらった賞状の裏が真っ白で非常にいい画用紙として、飛行機の絵などを描いたことを憶えています。しかし、小学校1年のときに、友だちと一緒に展覧会に出したら、友だちは賞をとったけど、私は取れなかった。その友だちの絵はマルと三角の絵でしたが、今の私の絵はマルと三角といった形がよく出てきます。

自分の絵がいつからこういうスタイルになったかはわかりません。試行のようなことは学生時代にもやってますし、デッサンも平行してやっていました。絵を描くということは、自分を突き放して見るというか、簡単に言えば自分を否定するということとも言えます。だから描いて見てみると、自分と違うもの、自分に欠けているものを探すことになります。若い頃から、いろいろなことをいろんな角度から考えるようにしていましたし、だから変化は内面では、いつもあったということですね。そして内部である臨界点に達して、絵画の表現としてでてきたということじゃないでしょうか。

素直な線が描きたいと思たんです。自分の線はとてもぎこちなく、不安な感覚がそのままでてる。だから何本も引いた線から、一本だけ線を選び出していく。具象とは、それは何かと分かると同時に、そのものを通して何かを示すことだと思うのです。





天才の作品は誰もが持つ感覚を呼び起こす


私の作品を見て共感していただけたら嬉しいです。展覧会で素晴らしい作品に接したときに、すごいなあ、とても自分じゃ真似できないなという感覚がありますが、ほんとにいいものに対面したときというのは、自分も描きたいなとか、そういう気持ちになるものじゃないかと思うんです。そういう共感だと嬉しいですねえ。今回、私の個展に来た子供が、桜島の絵の前にきて「ああ、私より上手だ」といって、褒めてくれたんですね(笑)。それも嬉しいですね。

誰もが内面にいいものを持ってますから、本当にいいものに触れたときって、同じようなものを見たという感覚を受けることがあると思うんです。ユトリロ、モジリアーニ、ゴーギャン、ゴッホとか、やっぱり感動する人間に共通の何かがあるんですよ。いい作品を前にすると自分の中にある忘れていた何かが触発されて、共感して、それこそ懐かしさを感じる。つまりそれは誰もが元々持っていたもの。それを引き出してくれるのが、つまりいい芸術作品じゃないかと。

いい作品は、自分の中からそういうものを引きだしてくれます。それは懐かしさという感覚かもしれませんし、自分にもできるという感覚かもしれません。だから、ほんとの意味での天才の作品は誰にでもある、そういう感覚を呼び起こさせてくれる作品じゃないかと。共通する、同じ土台のものを感じさせる。人との違いがあり、同時に共通する何かを持っているようなことなんじゃないでしょうか。



削ぎ落としていったらユーモラスになった


個性はみんな持っていて、みんな違う。個性的であろうとする必要はなくて、違ったデッサンをしようということでもなく、むしろよけいなものを削ぎ落とすこと、追いつめるだけ追いつめるというような。普遍的なものを表現するのが天才なんじゃないかと。

私の作品はユーモラスとよく言われることがあるんですが、自分ではそう描きたいとは思っていないんです。シンプルというか、いろいろなものを削ぎ落としていくと、残ったカタチがああなったわけで、結果的にユーモラスになったということです。そういうカタチをいっぱい描いてだけど私はもともと人を描きたいというのがあって、いろんなカタチの煙突を描いていて、その横に一人人間を描いたんです。そして、それを見て、タイトルをどうしようかと考えて、煙突になった男というのが生まれたんです。

これからもまだまだ、自分の表現を追求して、自分にとって大切なものは何だろうかと、それを探し続けていきたいですね。

城ヶ崎 悟(Satoru Jyogasaki )

プロフィール

1950年
鹿児島県肝属郡高山町に生れる

1973年
多摩美術大学絵画科油絵専攻卒業

1979年
第34回南日本美術展第5回海老原賞

1989年
吉井記念末吉町洋画展吉井賞
第1回「風の芸術展」
ビエンナーレまくらざき佳作賞
第6回伊藤廉記念賞

1991年
第9回上野の森美術館油絵大賞展
特別優秀賞(彫刻の森美術館賞)

1994年
明日への16人展(上の森美術館)
風まくらざき現代美術選抜展
(1996にも出品)

1996年
第39回安井賞展
田川市美術館大賞選定「英展」
大邸亜細亜国際美術展

1997年
第5回「風の芸術展」
ビエンナーレまくらざき大賞
鹿児島県芸術文化奨励賞

2000年
第9回 青木繁記念大賞公募展
(石橋美術館・福岡)
第29回 現代日本美術展 賞候補

2005年
作家の視点
-上野の森美術館大賞展入賞者展
アートミーティング
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