70年、続けるということ
1月6日付けの南日本新聞に、劇団文学座が70周年記念であることが載っていた。記念公演である平淑恵と渡辺徹の「長崎ぶらぶら節」が大きな写真とともに載っていたので、気づいた人も多いかもしれない。
文学座・・・東京での話でしょ、と思うかもしれないが、なんとこの鹿児島でも上演されるのである。
会員制の演劇鑑賞団体、市民劇場での観劇会でのみ観ることができる。
鹿児島で、生のお芝居を観ることはそう滅多にできない。まして、出演者や演目の話題性だけが目立つ商業演劇ではなく、じっくりといいお芝居を、となるとまず無理だろう。そんな中で、この市民劇場は、日々練習に汗し、俳優がその役どころをゆっくりと時間をかけて自分の中に落とし込み、自分なりの「その人」を演じきる「深い芝居」を恒常的に観ることができる貴重な機会だ。
この市民劇場というしくみが会員制をとっているのは、ある一定の鑑賞者を確保し、確実な上演実績を作ることで、劇団や俳優を支援していく、育てていくという、いわば文化振興、支援活動であるからだ。そのほとんどが東京に集中しているさまざまな劇団の若手俳優は、3万とか5万とかいう月給で生活していて、厳しい練習にもかかわらず、十分な栄養すら取れない状況で、地方巡業、特にこの九州公演の期間だけは腹一杯ごはんを食べることができ、一年の鋭気を養うのだとか。今の時代の話なのかと思ってしまうほど、なんとも切ないことである。
それを戦前から続けて、今年70周年という劇団文学座。演劇に対する情熱と、戦後の何もない時代だからこそ、心震わすお芝居をと、それこそ食べることに必死なご時世に続けてきた賜物だろう。それは、厳しい練習と本物の演劇をとおして、若手俳優に確実に伝えられ今に至る。
人はだれにも情熱を傾けるものがあるだろう。或いは、それを見つけるために必死になる。一生かかっても見つけられないことも決して少なくないと思う。でも、見つけられた人は、それをとことん突き詰めることが、追い続けることが、自分の存在の証しであり、生きている証しではないかと思う。
市民劇場の観劇会では、大抵いつも泣いている私。俳優が「その人」になりきって、架空の世界がそこにあり、いつのまにか引き込まれ、観ている自分の経験や人生とオーバーラップして自然に泣けてくる。或いは、人間の機微を知り、その切なさに泣けてくる。もちろん、泣ける話ばかりではないけれど、いずれにしても、役者の息づかいが空気を伝わって届くことが更に臨場感を引き出しているのだろう。やはり、芸術は、本物を直接味わうことがいかに大切であるかをつくづくと思うことである。
PandAは、この市民劇場活動に協力しています。一組3名以上で観劇サークルを作って観劇会に参加するのです。特に今年は、劇団文学座の70周年記念公演を皮切りに、年間7本のお芝居を観ることができます。ほとんどのみなさんが、お芝居は苦手、というより、あまり観る機会がなかったのではないかと思います。この機会に、ご自分がお芝居を好きか嫌いか、試してみてはいかがでしょうか。新しい世界が広がるかもしれません。そして、それは、ご自分も楽しみながら、誰かの夢を支える大きな力になっているかもしれません。
劇団文学座が70年も続けてこれたのは、そういう見えない多くの人の支えによることを、歴代の劇団員も理解していたからこそ、石にかじりついても、自分の夢である「演じること」を続けてきたのかもしれません。
芸術は、創る人だけでは成立しません。観る人がいて初めて価値を持つものです。その関係上において光り輝くものなのです。この市民劇場のしくみは、芸術のあらゆる場面において通用する「作家と鑑賞者」の恒常的な関係を作り続ける画期的なしくみといえるのではないでしょうか。
観劇サークルへの参加をご希望の方は、panda@npo-panda.jpまで、代表者のお名前とご連絡先、参加人数をお知らせください。詳しい資料と入会申込書をお送りします。また、どうしてもおひとりでしかご参加できない場合は、メール若しくはお電話(099-218-4670)でご相談ください。
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